歯髄炎って何?神経は残せる?可逆性歯髄炎・不可逆性歯髄炎の違いについて
2026/02/28
東京都江戸川区小岩で根管治療専門外来を開設しております、笠原デンタルオフィス院長です。
「冷たいものがキーンと染みる」
「熱いお茶を飲むと、しばらく痛みが引かない」
「夜、寝ようとすると脈打つようにズキズキ痛んで眠れない」
このような激しい痛みがあるとき、私たちの歯の内部では「歯髄炎(しずいえん)」という事態が起きている可能性があります。
これは、歯の神経(歯髄)が炎症を起こし、悲鳴を上げている状態です。
歯科医院へ行くと、「神経を抜きましょう」と言われるのではないかという恐怖から、受診をためらってしまう方もいらっしゃるでしょう。
しかし、知っておいていただきたいのは、歯髄炎には「神経を助けられる段階(可逆性)」と「神経を抜かざるを得ない段階(不可逆性)」の2つのステージがあるということです。
この記事では、歯髄炎のメカニズムと、運命を分ける境界線について以下の内容で詳しく解説します。
歯髄炎(しずいえん)とは何か? 痛みが出る仕組み
「可逆性歯髄炎」と「不可逆性歯髄炎」
神経を残せるかどうかの「見極め」について
自由診療だからこそできる「VPT(歯髄保存療法)」の可能性
歯髄炎(しずいえん)とは何か?
「歯髄炎(しずいえん)」という言葉は、一般の方には少し馴染みが薄く、漢字のイメージから「なんだか難しくて怖そう」と感じてしまいがちですよね。
歯髄炎をひとことで言うと、「歯の中にある神経と血管の束(歯髄)が、細菌などの刺激によって炎症を起こし、パンパンに腫れている状態」のことです。
歯の中は「逃げ場のない密室」
私たちの体の他の部分、例えば指をぶつけて腫れたときは、皮膚が伸びて外側に膨らむことができますよね。
しかし、歯の中(歯髄)は硬い「象牙質」という壁に囲まれた、完全な密室です。
この密室の中で炎症が起きると、血管が膨らんで内圧が急激に上がります。
逃げ場を失った圧力が神経をダイレクトに圧迫するため、「激痛」や「脈打つような痛み(拍動痛)」が引き起こされるのです。
いわば、狭い部屋の中で火事が起き、熱気と煙の逃げ場がなくなって爆発寸前になっている状態、それが歯髄炎です。
「歯髄炎」と「知覚過敏」はどう違う?
「冷たいものが染みる」という症状は両者に共通していますが、その原因と深刻度は全く異なります。
ここで、それぞれの違いを整理してみましょう。
知覚過敏(ちかくかびん)
~一時的な刺激による痛み~
知覚過敏は、歯の表面を覆っているエナメル質が削れたり、歯茎が下がって根っこが露出したりすることで、外部の刺激が神経に伝わりやすくなっている状態です。
原因としては、強いブラッシング、歯ぎしり、酸性の飲食物などが挙げられます。
痛みの特徴
冷たいものや風が当たった瞬間に「キーン」としますが、刺激がなくなればすぐに(1〜2秒で)痛みは消えます。
炎症の有無
神経そのものに大きなダメージや炎症があるわけではありません。
治療の緊急性
コーティング剤を塗るなどの処置で落ち着くことが多く、急いで神経を抜く必要はありません。
歯髄炎(しずいえん)
~内部の「深刻な異常事態」~
一方の歯髄炎は、神経そのものが細菌感染や強いダメージによって「病気」にかかっている状態です。
原因としては、深い虫歯(細菌の侵入)、歯の亀裂、外傷などが挙げられます。
痛みの特徴
冷たいものだけでなく、「熱いもの」でも染みるようになります。
また、刺激を取り除いた後も、痛みが数十秒〜数分間ジワジワと続く(残余痛)のが大きな特徴です。
炎症の有無
神経が実際に腫れ、組織が壊れ始めています。
治療の緊急性
放置すると「不可逆性(戻れない状態)」になり、激痛の末に神経が死んでしまいます。
早急な専門的治療が必要です。
「歯髄炎」と「知覚過敏」の見分け方
| 項目 | 知覚過敏 | 歯髄炎 |
痛みの長さ |
一瞬(刺激が消えればすぐ止まる) |
長い(数分〜ずっと続く) |
熱いものへの反応 |
あまり痛まない |
激しく痛むことが多い |
何もしない時の痛み |
ない |
ズキズキと痛むことがある(自発痛) |
夜寝る時の痛み |
ない |
痛みが強くなることがある(夜間痛) |
叩いた時の響き |
ほとんどない |
響くように痛むことがある |
「可逆性歯髄炎」と「不可逆性歯髄炎」
「可逆性」とは「元の状態に戻ることができる」という意味であり、「不可逆性」とは「もう二度と元の状態には戻れない」という意味です。
この境界線は、歯の神経(歯髄)の血流と、細菌の侵入度合いによって決まります。
可逆性歯髄炎(かぎゃくせいしずいえん)
【歯の状態】神経は「火傷(やけど)」をしているだけ
可逆性歯髄炎は、神経が細菌や熱などの刺激を受けて「一時的に充血し、敏感になっている」状態です。
歯髄の血管が拡張し、血液が一時的に集まっています(充血)。
しかし、神経の細胞自体はまだ死んでおらず、細菌も神経の部屋(歯髄腔)の深部までは入り込んでいません。
なぜ戻れるのか
炎症の原因(深い虫歯や刺激物)を取り除き、清潔な状態で密閉してあげれば、血流が正常に戻り、神経は再び健康な状態に回復できるからです。
症状のサイン
冷たい水が染みるが、飲み込んだ後はすぐに痛みが引く。
甘いものが染みる(浸透圧の刺激)。
歯科医師が風を当てると鋭く痛む。
不可逆性歯髄炎(ふかぎゃくせいしずいえん)
【歯の状態】神経の一部が「腐敗・壊死」し始めている
不可逆性歯髄炎は、炎症が臨界点を超え、神経の組織そのものが破壊され始めている状態です。
細菌が神経の部屋の中に深く侵入し、組織をドロドロに溶かして「膿(うみ)」を作り始めています。v
密室の中の圧力はピークに達し、神経の一部が死んで腐敗し始めています(壊死)。
なぜ戻れないのか
壊死してしまった神経組織は、トカゲの尻尾のように再生することはありません。
また、細菌が神経の複雑なネットワークの隅々まで入り込んでいるため、表面の虫歯を取るだけでは炎症を鎮めることが不可能だからです。
症状のサイン
「熱いもの」で痛む。
何もしていなくても、ズキズキと激しく痛む(自発痛)。
夜、お風呂上がりや就寝中に痛みが激化する(夜間痛)。
痛み止めを飲んでも、一時的にしか効かない。
ステージ別の「治療方針」と「神経の生存率」
診断の結果によって、治療のゴールは大きく変わります。
| 状態 | 治療方針 | 神経の予後 |
可逆性歯髄炎 |
虫歯を完全除去し、薬剤で保護(覆髄)した上で詰め物をする。 |
ほぼ残せる。術後の経過も良好なことが多い。 |
不可逆性歯髄炎(軽度) |
VPT(歯髄保存療法)により、汚染された神経の一部だけを除去し、MTAセメントで蓋をする。 |
50〜80%程度の確率で一部温存が可能。 高度な技術が必要。 |
不可逆性歯髄炎(重度) |
抜髄(ばつずい)。神経をすべて取り除き、根管内を無菌化して充填する。 |
神経は残せない。しかし、歯そのものを残すための最終手段。 |
専門医のジレンマ:境界線の見極めが最も難しい
実は、臨床において「ここから先は不可逆性だ」と100%正確に断定することは、現代の医学でも非常に困難です。
なぜなら、歯を削って神経を直接見るまでは、中の正確なダメージは予測の域を出ないからです。
そこで重要になるのが、「マイクロスコープ(歯科用顕微鏡)」です。
当院では、虫歯を除去した際、露出した神経(歯髄)を20倍の拡大視野で観察します。
可逆性であれば
神経の色は鮮やかなピンク色で、わずかな出血もすぐに止まります。
不可逆性であれば
神経はどす黒く、出血が止まらなかったり、黄色い膿が混じったりしています。
この「微細な色の変化と出血のコントロールの可否」を直接目で確認することこそが、神経を残すか抜くかの「最後の審判」を下す唯一の客観的な方法なのです。
自由診療だからこそできる「VPT(歯髄保存療法)」
他院で「不可逆性歯髄炎なので神経を抜くしかない」と言われた場合でも、当院の精密保存治療(VPT:Vital Pulp Therapy)によって救えるケースがあります。
これら「十分な時間の確保」「高額な特殊薬剤の使用」「マイクロスコープ下での繊細な操作」は、残念ながら現在の保険制度の枠組みでは実現が困難です。
しかし、「神経を一本残すこと」は、将来の歯根破折や抜歯のリスクを大幅に減らす、かけがえのない価値があると考えています。
ラバーダム防湿とマイクロスコープの徹底
神経を少しでも露出させる治療において、唾液(細菌)の混入は絶対に避けなければなりません。
ラバーダムを使用し、無菌的な環境下でマイクロスコープを用いて感染部分のみを精密に除去します。
MTAセメント(バイオセラミック)の使用
殺菌性が高く、生体親和性に優れたMTAセメントを用いて神経の断面を直接保護します。
この材料は、象牙質の再生を促し、神経の「蓋」を完璧に作り上げることで、これまでの保険診療では残せなかった神経を温存することを可能にしました。
神経を残すこと、抜くことの「真実」
私たちは「何が何でも神経を残す」ことが正解だとは考えていません。
無理に残すリスク
不可逆性の末期状態で無理に神経を残そうとすると、後になってから神経が腐り、根の先に大きな膿の袋を作ってしまうリスクがあります。
その結果、治療がより複雑になり、かえって歯を失う原因になることもあります。
納得のいく「選択」のために
大切なのは、「現在の神経の状態」を正しく把握し、残せる確率がどれくらいあるのかをプロとして正直にお伝えすることです。
その上で、患者様と共に治療方針を決定する。このプロセスこそが、後悔のない治療に繋がります。
あなたの「歯の命」を守るために
歯の神経は、ただ痛みを感じるためだけにあるのではありません。
歯に柔軟性を与え、異変を知らせる警告灯として機能しています。
神経を失った歯は、枯れ木のように脆くなり、寿命が短くなってしまいます。
東京都江戸川区小岩にある笠原デンタルオフィスは、日本顕微鏡歯科学会認定指導医として、その警告灯を消さずに済む方法を最後まで模索します。
「冷たいものが染みるけれど、まだ大丈夫かな?」
「激しい痛みがあったけれど、少し落ち着いた」
そんなときこそ、決断のタイミングです。
可逆性から不可逆性へ移る前に、そして不可逆性が深刻化する前に、ぜひ一度精密診断を受けてください。
私たちは、あなたの「自分の歯で一生噛みたい」という願いを、最新の技術と誠意をもって全力でサポートいたします。
笠原デンタルオフィス・精密根管治療専門サイト:https://endodontics-tokyo.com/
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