【歯髄保存療法】「歯髄(神経)」を守り抜くための治療法
2025/12/05
あなたの歯の「神経」、本当に抜く必要がありますか?
東京都江戸川区小岩で、歯の根の治療(根管治療)を専門に行っている笠原デンタルオフィスです。
虫歯が見つかった際、「歯の神経を抜き、根管治療をしましょう」と提案されることは少なくありません。
しかし、一度神経を抜いた歯は、構造的に弱くなり、将来的に抜歯となるリスクが高まってしまいます。
歯の内部にある「歯髄(しずい)」、一般的に「神経」と呼ばれるこの組織は、歯に栄養や水分を供給し、外部刺激から歯を守る大切な役割を持っています。歯髄を失うことは、歯の「命」を失うことに等しいのです。
これは、虫歯が進行していても、感染したごく一部の組織だけを取り除き、健康な神経の大部分を残して、歯の持つ活力を維持することを目指す治療法です。
この記事では、歯髄保存療法について分かりやすく解説します。
歯の神経(歯髄)を残すことが「歯の健康」に繋がる理由
歯髄保存療法の重要性を理解するために、まず「歯髄」の役割と、神経を抜く(抜髄)ことの影響をご説明します。
歯の神経(歯髄)が担う、かけがえのない役割
歯髄は、歯の内部にあり、単に痛みを感じるだけでなく、血管やリンパ管を含み、以下の重要な機能を果たしています。
栄養供給と強度維持
歯に栄養と水分を供給し、歯を柔軟で割れにくい状態に保ちます。
防御と修復機能
虫歯などの刺激から歯を守るために、自ら象牙質という防御壁を新たに作り出す修復作用を持っています。
感覚機能
冷たいものや痛みを感じることで、歯の異常を私たちに知らせる「警告システム」の役割を果たします。
神経を抜く(抜髄)ことによる長期的な影響
一度歯髄(神経)を抜いてしまうと、その歯は以下のような状態になり、将来的なリスクを負うことになります。
歯が脆くなる
栄養供給が途絶えるため、歯が乾燥し、もろくなります。
これにより、硬いものを噛んだ際に、歯が割れたり、見えないひび(破折)が入ったりするリスクが高くなります。
病気の発見が遅れる
痛みという警告がなくなるため、再び虫歯ができたり、根の先に感染が起こったりしても気づかず、病気の進行が遅れてしまうことがあります。
再治療のリスク
神経を抜いた後の根管は、どれほど精密に治療しても、再び細菌が侵入し、根の先に膿が溜まる(根尖病変)可能性を完全にゼロにすることはできません。
歯髄保存療法は、このような神経を抜くことによる長期的なデメリットを回避し、歯の寿命を延ばすことを目的とした、価値のある治療選択肢なのです。
歯髄保存療法の具体的な方法
歯髄保存療法は、虫歯の進行度合いと歯髄の炎症の程度によって、治療のアプローチが異なります。
歯髄保存療法の二つの主な方法
当院では、主に以下の二つの専門的な方法で、歯髄の保存を目指します。
直接覆髄法(歯髄を直接保護する方法)
虫歯を注意深く削った結果、歯髄(神経)がごくわずかに露出してしまった場合に適用されます。
露出した部分から細菌が入るのを防ぐために、特殊な薬剤を直接覆いかぶせます。
この薬剤が、歯髄の持つ自己修復能力を助け、外部からの刺激を防ぐための硬い壁(象牙質)を新しく作ってもらうことを目指します。
部分断髄法(感染部分だけを除去する方法)
虫歯が深く、歯髄の一部がすでに細菌に感染して炎症を起こしている可能性がある場合に適用されます。
この方法では、感染して炎症を起こしている歯髄のごく一部(表面側)だけを慎重に取り除き、それより深い部分にある健康な神経組織はそのまま残します。
これにより、神経の活力を最大限に残しつつ、感染源を断つことが可能となります。
成功を左右する「適応症の見極め」
歯髄保存療法は、すべての虫歯に適用できるわけではなく、治療の成果を出すためには、事前の正確な診断が最も重要です。
特に「神経の炎症が、元に戻せる状態かどうか」の見極めが鍵となります。
適応できる条件
神経を残すことが可能だと判断されるのは、主に以下の臨床症状と診断結果が確認された場合です。
痛みの持続時間が短い
冷たいものや甘いものがしみる症状があっても、刺激がなくなれば数秒以内に痛みが完全に消える場合。
これは、神経の炎症がまだ「可逆的(元に戻せる状態)」な範囲に留まっている可能性が高いことを示します。
何もしなくてもズキズキと痛むことはありません。
歯髄の出血が健康である
虫歯を取り除き、神経が露出した際に、神経組織からの出血が鮮やかな赤色であり、かつすぐに止まる場合。
これは、神経組織の血流が良好で、生命力(活力)が残っており、自己修復能力が期待できる重要なサインです。
ドロドロとした暗い色の出血や、なかなか止まらない出血は、感染が深く進行していることを示します。
炎症が限定的である
虫歯の細菌による感染が、神経組織のごく浅い部分に限定されており、神経の深い部分(根っこの方)までは及んでいないと判断される場合。
当院では、マイクロスコープを使って患部を拡大し、この炎症の深さを慎重に見極めます。
根の先に病変がない
歯科用CBCT(3次元レントゲン)の撮影により、歯の根の先に細菌感染による骨の破壊(膿の袋)が見られないことが確認されている場合。
根の先に病変がある場合は、すでに神経全体が深く感染している可能性が高く、抜髄(神経を抜く根管治療)が必要です。
適用できない条件(抜髄が必要なケース)
何もしなくてもズキズキとした激しい痛みが長時間持続する場合
夜中に目が覚めるほどの痛みなど。
これは、神経の炎症が不可逆的(元に戻らない状態)にあることを示します。
根の先に膿が溜まっている、あるいは歯髄全体が細菌に深く汚染されていると診断された場合。
歯のひび割れ(破折)が確認された場合。
この「可逆的か、不可逆的か」という微妙な境界線を正確に見極めるために、当院では歯科用CBCTによる立体的な診断と、マイクロスコープによる詳細な観察が不可欠となります。
成功への鍵:笠原デンタルオフィスの専門的な「つよみ」
歯髄保存療法は、非常にデリケートで高度な技術を要する治療です。
神経を残せる可能性は、歯科医師の専門的な知識と、治療環境によって大きく左右されます。
日本顕微鏡歯科学会認定指導医による「精密な拡大視野下治療」
神経を傷つけることなく、感染している部分だけを正確に取り除く作業は、肉眼では不可能に近い作業です。
歯科用顕微鏡(マイクロスコープ)
当院では、日本顕微鏡歯科学会認定指導医の院長が、マイクロスコープを常時使用します。
治療箇所を最大20倍まで拡大することで、健康な神経組織と、感染して取り除くべき部分の境界線を鮮明に見分けながら、細部にわたる治療を行います。
これにより、健康な神経を傷つけず、感染源の取り残しを防ぐ精度を高めます。
正確な診査診断
治療開始前には、歯科用CBCTで歯の根の構造や病変の有無を立体的に把握し、患者様に対してわかりやすい説明で治療方針の根拠を明確にご提示します。
無菌環境を徹底する「ラバーダム防湿」
歯髄保存療法において、最も成功を妨げる要因の一つが、治療中に細菌が神経に侵入することです。
当院では、このデリケートな治療の際もラバーダム防湿を徹底します。
口の中の唾液に含まれる細菌が、露出した神経や治療箇所に触れることを完全に防ぎ、治療部位を清潔な状態に保ちます。
これは、神経の炎症を最小限に抑え、自然治癒力を最大限に引き出すための不可欠な条件です。
歯の自己修復を助ける特殊な材料の使用
神経を保護するために使用する材料も、治療の成果に大きく影響します。
生体親和性の高い特殊な薬剤(MTAセメントなど)
当院では、神経組織の再生や防御壁(象牙質)の形成を助ける、生体親和性の高い特殊なセメントを使用します。
これにより、治療後の神経の治癒力を高め、歯が長く健康を保てるようにサポートします。
歯髄保存療法の限界と、抜歯を避けるためのセカンドオピニオン
歯髄保存療法は歯の寿命を延ばす可能性を秘めた治療ですが、医学的な限界があることも事実です。
治療後、一時的に冷たいものなどで歯が敏感になることがありますが、これは神経が回復に向かう過程で起こる一時的な反応であることがほとんどです。
しかし、もし以下のような症状が続く場合は、残念ながら歯髄保存療法がうまくいかなかった可能性があり、通常の根管治療(抜髄)へ移行する必要が生じます。
強い痛みが持続する
何もしなくてもズキズキとした痛みが長時間続く場合。
根の先に感染の兆候が見られる
歯茎にデキモノ(サイナストラクト)ができたり、歯茎が腫れたりした場合。
万が一、治療がうまくいかなかった場合も、当院は日本顕微鏡歯科学会認定指導医による精密根管治療へとスムーズに移行します。
患者様の不安を最小限に抑え、次の最善の治療へと進める体制を整えています。
神経を残したいと願う方へのセカンドオピニオン対応
「他の歯科医院で『もう神経を抜くしかない』と言われたけれど、どうしても自分の歯を残したい」
そんな強い願いを持つ方もいらっしゃるでしょう。
当院では、そのような不安を抱える患者様に対し、セカンドオピニオンを積極的にお受けしています。
歯科用CBCTなどの精密な検査を通じて、現在の歯髄の状態、炎症の進行度を客観的に診断し、神経を残せる可能性について慎重に検討します。
神経を抜くという元には戻せない決断をする前に、ぜひ一度、当院にご相談ください。